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雑草のような雑念と雑考

古代人の名「羊」をさがす

 関東地方、群馬県には上毛三古碑というのがある。ユネスコの「世界の記憶」遺産にも登録された由緒ある遺物であります。

その一つである多胡碑は、8世紀後半に製作された碑だという。

そして、この地方には「羊太夫」伝承が伝わっている。

ja.wikipedia.org

多胡羊太夫(たご ひつじだゆう)については和銅4年に近隣3郡から300戸を切り取り「羊」なる者に与え多胡郡とした」という碑文から、そういう人物はいたらしい。

 面白いのは、名古屋の羊神社があり、やはり羊太夫を祭っていることだろう。

 しかしながら、羊という名前が引っかかる。日本書紀に羊は大陸からやってきているのは確認できる。家畜として日本に根付くことはなかった。渡来人も日本での生育には成功しなかったわけである。

 でもって、手元の「日本古代人名辞典」で「羊」の名の人物を調べてみた。その人びとの年代は吟味していないけれど、8世紀から9世紀くらいだという見当であります。

 

鳥取羊 雑使。勝宝二・八造東大寺司に上日夕した
額田部羊 出雲国大原郡屋裏郷賀太里の戸主額田部宇麻の戸口。天平六・五

     盗人として移送された

爪工部羊 御野国本費郡栗栖太里の戸主刑部都伎の戸口。
丈部眞羊 左衛士府の火頭。天平十六・七より翌年七月まで皇后宮職に服仕

     した

秦人羊賣 御野国加毛郡半布里の戸主秦人石寸の戸口。戸主の弟伎波見の

     女。
秦部小羊 豊前国三毛郡加自久也里の某戸の戸口
秦部羊 豊前国三毛郡塔里の戸主塔勝岐弥の戸口
秦部羊買 豊前国三毛郡塔里の戸主
土師子羊 仕丁。造東大寺司の木工所に属し、宝字年間に写経所に服仕し

     た。
檜前羊 仕丁。宝字七二一より七・四まで、造東大寺司に上日した
書首羊古 宝元五年、同姓胴檀高らとともに、河内国西琳寺の阿弥陀仏

     を造立した
古溝勝羊賣 豊前国仲津郡丁里の戸主刀留の戸口
勾羊 木工。宝字六・二安居堂造営のため、造寺司政所より造石山院所に

   召された
三上部羊 出雲国匠丁
三宅羊 雑使。宝字二・三東大寺造物所より写経所へ使した
六人部羊 御野国肩県郡肩々里の戸主国造大庭の戸口

物部羊 御野国本費郡栗栖太里の戸主物部弟の戸口。
物部羊賣 筑前国嶋郡川辺里の戸主物部麻呂の戸口。

山部羊 遠江国浜名郡津築郷の戸主。
古溝勝羊賣 豊前国仲津郡丁里の戸主刀留の戸口
高屋勝羊 豊前国仲津郡丁里の戸主川辺勝広国の戸口
建部臣羊 出雲国出雲郡建部郷波如里の一戸主建部臣小鳥の戸口
手嶋部羊 豊後国の戸主
丁勝羊 豊前国仲津郡丁里の戸主丁勝長兄の戸口
丁勝羊賣 豊前国仲津郡丁里の戸主丁勝馬手の戸口
高志史羊 河内国大鳥郡人。行基の父。行基大僧正舎利瓶記に、行基の俗姓は高志氏で、その父は講才智、字智法、もと百済王子工繭の裔である

狭度勝羊 豊前国仲津郡丁里の戸主狭度勝某の戸口
狭度勝羊賣 豊前国仲津郡丁里の戸主狭度勝某の戸口

大件部子羊 下総国相馬郡の防人。勝宝七・二相替により本郷より徴さ

      れ、筑紫に遣わされる時、歌を詠じた
刑部羊 御野国本贅郡栗栖太里の下政戸下々戸主
勝部羊 出雲国神門郡日置郷荏原里の戸主但馬の戸口

上屋勝羊賣 豊前国三毛郡加自久也里の戸主河辺某の戸口
川内漢部羊 豊後国某里戸主等与の戸口
川邊勝羊 豊前国仲津郡丁里の某戸主の戸口

安曇部真羊 信濃国安曇郡前科郷の戸主

敢石部羊 遠江国浜名郡新居郷の房戸主

悧江部羊賣 御野国味蜂間郡春部里の戸主春部角麻呂の戸口

海部羊女 出雲国河内郷伊美里の月主日置部臣足弓の戸口

海部直羊女 因幡国某郷2月主伊福部小足の戸口

出雲部羊賣 備中国賀夜郡葦守郷三井里の戸主物部大海の戸口

宇治部羊 木工所仕丁

卜部首羊 筑前国嶋郡川辺里の戸主

占部羊 仕丁。景雲四・三庸布浄衣を下され(六20)、 同四・八にも

    浄衣を給い

 

 

 かなりの人数だ。しかし戸主や小口などの民間人がほとんどであり、羊太夫に相当する人物は含まれていない。そもそも上毛地方(群馬県)の出身者は見当たらない。なんというか今の大分県あたりの豊前国人が多い。

羊賣はなんと読むのだろう。「ひつじう」か。羊と組みで命名されている気配がある。ようするに、羊はとくべつな名ではないというのが検証の結果だろう。

 このなかで、高志史羊は格別な人物であった。行基の父親で百済人である。

渡来系としては、美濃国の秦人羊賣なる女性がいる程度である。

 

 

 

日本古代中世人名辞典

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  • 発売日: 2006/10/01
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 そういえば、村上春樹の『羊をめぐる冒険』に出てくる羊男は、地霊の蘇りを意識していたそうだが、羊太夫が作者の無意識のうちに蘇ったんじゃなかろうか?

 

羊をめぐる冒険 (講談社文庫)

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