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雑草のような雑念と雑考

地中海世界の歴史に学ぶ

 環境破壊と文明の衰退が歩調をあわせて進むことは歴史から明らかだ。その観測可能なモデルが、古典期ギリシア・ローマ世界である。
 観測可能というのは十分な資料とデータがあり、その内容が現代人にも理解できるからだ。
しかも、ギリシア・ローマ世界は近代世界システムのひな形であると言える。
 支配形態が近い。法制度と政治組織、それに社会インフラ(都市基盤や水道、道路網)などは
そのオリジンはローマにある。文藝諸科学はギリシアにてその素朴な型が出来ている。

 なかんずく参考になるのが、地中海世界における経済依存関係である。臨海地域の相互の物流と貿易により経済的繁栄と文化の栄華を誇ったのだから、それは21世紀世界の地域関係とで類推できる。

 そのケチのつけ始めは各地域の環境破壊もしくは急速な経済発展=人口膨張から始まる。
得てしてこの二つは踵を接して起きる。人口膨張は侵略もしくは隣国との摩擦になり、戦役となり、それを繰り返すことで国土が荒れ果てる。
 ギリシア世界でそれが先行して起き、アレキサンダーの世界支配を経由して、やがてローマに覇権が移る。
アッティカの大気汚染』はギリシア全土で土壌流出と環境破壊が起きた様を人為的なものとして記している。
 アテナイの興隆期には大戦隊の艦船を維持するために大量の森林が破壊された。
艦船を維持することが目的になり、アッティカだけでなくやがてはギリシア各地の森林が収奪の対象になる様が分かる。
 かくてペリクレスアテナイは没落するのだが、国敗れて山河ありとはいえ、自然環境は大きなダメージを負う。アレキサンダーの後継者の帝国がローマ帝国に勝てなかった理由の一つは、食糧供給力や森林のダメージがあったのではないだろうか?

 ということで、一つの歴史的教訓が得られる。

 伸びきった社会システム=経済繁栄の絶頂期に襲いかかる環境激変は、修復不可能なダメージを与える

 トインビーの『ハンニバルの遺産』からは別のタイプの警告を読み取るべきだろう。
第二次ポエニ戦争により南部イタリアは、これも修復不可能な環境ダメージを受けたのだ。カルタゴとローマの両帝国の膨張主義が生み出した人為的な悲惨がこれだ。
 実は、第三次ポエニ戦争カルタゴが滅び去ってわずか一世代後で、ローマ共和制は瓦解する。イタリア半島の自然環境の激変が共和制の維持を許されない状況に追い込んだと解釈できると思う。

 鳥影社の貴重な文化遺産として本書を挙げておく。

アッティカの大気汚染―古代ギリシア・ローマの環境破壊

アッティカの大気汚染―古代ギリシア・ローマの環境破壊

 トインビーの名著は戦争の惨禍が環境劣化をもたらすことに警鐘を鳴らした