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雑草のような雑念と雑考

フラットランドとブラッドランド

 娯楽数学ファンの聖典アボットの『フラットランド』は二次元国に住む仮想の住民ののどかなユークリッド的ファンタジーだ。ボルヘスすらも文学的な愛読書として、彼の文学シリーズに組み込んでいた。

 おおどかな閑人のためのエンターテインメントなのであろう。

他方、ティモシー・シュナイダーは時は20世紀、場所は東ヨーロッパでの凄惨な殺戮戦のヒストリーだ。単なる戦争のノンフィクションではない。

 人殺しのための戦い、民族浄化戦争の実話である。わずか一字違いで、おそろしい隔絶が両著にある。

 この本を両方読むことは、しかし、理想の国の平和と全体主義的な独裁者の国家の戦争とを両方理解することになる。現実と理念の同時理解という平和ボケ日本人の頭の試練である。せめて、遥かなるウクライナの鉄と血まみれの大地を感じることにはなる。