小林多喜二の拷問と築地警察署

ノーマ・フィールド女史は小林多喜二の拷問死に対して半世紀たった今でも、痛烈な抗議をしている。
まことに同感である。
反体制作家であるということだからだけで、三時間の非道な拷問（その無残な亡き骸の写真も残る）を単なる時代の差ということだけで風化させてはならぬ。
　1933年2月20日に築地警察署の特高ナップ係の中川成美やその部下によって法治国家にあるまじき暴力によって虐殺された。前田医院に担ぎ込まれたがすでに事切れていた。
「彼らは右手の人差し指を手の甲に届くまで折った」とノーマ・フィールドは怒り込めて書いている。
　こうした体制維持のヤクザな獄吏たちの名前を晒したのは彼女が初めてであろう。
『蟹工船』などでプロレタリアートに同情した作家が何ら裁判も受けずに闇の力により葬り去されるというのも戦前の皇国の姿なのである。いくらゼロ戦や戦艦大和が素晴らしいものであっても、そういうものとは異なる闇があった。

　こうした特高のサディストたちの名前をもっともっと、天下にさらすべきではないだろうか？

　驚くべきことに、事件とは無関係な前田医院はいまでも、築地警察署の近所で営業している。

　ノーマ・フィールドは多喜二の故郷である小樽に一年ほど在住して、このドキュメントをまとめている。

小林多喜二―21世紀にどう読むか (岩波新書)