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雑草のような雑念と雑考

ロンギヌスの槍

 イエス・キリストに槍を突き立てたローマ兵士の名がロンギヌスだと伝えるのは新約外典でしかない。「ニコデモによる福音書(ピラト行伝)」に初めて出てくる人物だ。キリストの処刑後改心して、カッパドキアで28年間清貧な生活をおくり、最後は殉教したという。
 『黄金伝説』には聖ロンギヌスの短い伝記が含まれている。
 それにしても4福音書とは別物であるわけだが、その4福音書すらもそれほど隔絶した正統性を持つものではない。
 福音書が4つに限られるべきを説いたのは2世紀のキリスト教教父の一人エイレナイオスだ。
この頃にはキリストの生涯にまつわる様々な教典が溢れていた。その混乱を危惧したエイレナイオスは厳正に審査してマルコ、ルカ、マタイ、ヨハネに絞ったと言われる。
 福音(Evangelion エヴァンゲリオン)の名が示すように、我が国で人気のカルト・アニメはキリスト教異端に題材をとっている。換言すると非キリスト教的伝統の文化だからこそ自由なアレンジが出来たというべきだろう。
 さて、「ロンギヌスの槍」であるけれどアドルフ・ヒトラーはその神秘性に魅せられた一人である。世界征服の悪の皇子たるアドルフはこの槍を入手することでおのれの正当性を確立しようとしたのであろう。
 いくつかの偽物のうちから、オカルティスト・ヒトラーが選んだのが、ウィーンのホフブルク宮殿の秘宝とされた「ロンギヌスの槍」なのだそうだ。
 つまりは、伝説のうえに言い伝えを重ねたでっち上げの偽物が、「ウィーンのホフブルク宮殿の秘宝」を含め、ロンギヌスの槍の正体なのだと言いたい。
 聖典外典か、その区別は人為的であり、ロンギヌスなる兵士の実在性も疑わしいのに、その槍なるものが、本物かどうか誰が保証できよう!?
 そのようなフェークものに血道をあげたヒトラーの気質にはまっとうな政治的理性が宿ることはないであろう。

ロンギヌスの槍―オカルティスト・ヒトラーの謎 (学研M文庫)

ロンギヌスの槍―オカルティスト・ヒトラーの謎 (学研M文庫)

黄金伝説 1 (平凡社ライブラリー)

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