再刊本であるが、S.グリーンブラットの本を読んで感じたことをまとめる。
本書はルクレティウスの『事物の本性について』というローマ時代の本をめぐる知的冒険の本であります。
ルクレティウスの同書はたしかに当時のヨーロッパ知識界にじわじわと影響を及ぼすのですが、それはキリスト教の基盤も揺るがすような仕方で浸透するのです。
考えてみれば、中世から近世までヨーロッパの学問や知識はギリシャとローマの古典文化の礎に築かれてきました。だから、ブックハンターは埋もれた書籍を探し回った。
あるいは中東イスラム圏から還流されてきた古代の知識を浴びるように求めた。
12世紀にそれが顕著だったことは「十二世紀ルネサンス」というイベントがあるくらいです。
ちょうどイギリスではスウィフトの時代、フランスではボルテールの時代あたりに分水嶺がある。古代の知識を西欧文明は乗り越えたかどうかという論争があります。
いずれにせよ、西洋文明は乗り超えてきて近代文明のおおもとになるわけです。
再度思い起こしたいのは、ルクレティウスの本のようなインパクトを持つ古代の知識というのは、幾種類もあり、何度となく西洋文明を脱皮させ、揺さぶり、進化させていることです。18世紀くらいまでは古代の知識は半ば崇拝の対象であったのではないかと思います。
ニュートンやオイラー、産業革命やフランス革命、カントやゲーテ、革新的な印刷術と航海術などを介して、より広汎で深い知識とパワーを勝ち得ていく過程で、「古代の叡智」のような思いというか先入観は薄れてゆくわけです。
それでも完全にギリシャローマ文明の遺産を乗り越えたかというとそうでもないかもしれません。
ルクレティウスの一冊の写本がどれほどインパクトを持っていたかを考えると古代の知識はがん味する価値はあるし、近代化の過程で現代人が忘失したものがあると考えてもいいのではないか?
極東の別の伝統をもつ日本はそういう眼でギリシャローマ文明の遺産を読み解くこともできるでしょう。



